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ヤマハ新型ドローン”YMR-01″の
新たなる可能性

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産業用無人ヘリコプター最大手のヤマハ発動機は、10月11日から13日にかけて、幕張メッセで開催された「第4回国際次世代農業EXPO」において、来年発売予定の産業用ドローンのプロトタイプ「YMR-01」を参考出品した。


独自の技術とデザインで魅了する産業ドローン

YMR-01は6ローターのヘキサコプターのレイアウトながら、左右の2ローターのみを上下二重反転とした8ローター式という独特のレイアウトを採用。この左右の上下二重反転ローターが強力な下降気流を生み出し、この直下の適切な位置にノズルを配置することで、作物の根元まで均一に薬剤を散布することが可能になっているという。

アーム類は全てカーボン製

また、胴体はカーボン樹脂によるモノコックシェル構造を採用し、軽量化と高い剛性を実現。上面に2組の専用バッテリーを搭載するほか、前後には大きなエアインテークが設けられ、内部の電装系を効率よく冷却する設計。さらに4本のランディングギアは着陸時の衝撃を緩和する構造となっているなど、オリジナリティあふれるつくりとなっている。

上部の黒い左右部分には
バッテリーが収められている

このランディングギアのデザインは、同社のスノーモビルのスキー部分に着想を得た(担当デザイナー)とのことで、カーボンモノコックシェルをはじめ各部のデザインへのこだわりはヤマハ発動機ならでは。また、フライトコントローラー、バッテリー、モーター、ESCなど、機体のコンポーネントのすべてを自社で開発するなど、同社のドローン事業への意気込みを感じられるモデルとなっている。

このYMR-01や産業用無人ヘリコプター「FAZER R」、そのほかにも陸海空の無人機を開発しているのが、ヤマハ発動機ビークル&ソリューション事業本部のUMS事業推進部(UMS=Unmanned System・無人システム)。そこで、UMS事業推進部長の中村克さんに改めて農業分野での産業用無人ヘリコプターの歴史と、これから登場するドローンについて伺った。

ビークル&ソリューション事業本部UMS事業推進部長
中村 克氏

──まずは、ヤマハ発動機の産業用無人ヘリコプターへの取り組みについて教えてください。

中村さん:1987年にR-50(L09)というモデルを発売したのが最初です。それまでは有人のヘリコプターで薬剤の空中散布を行っていたのですが、この空中散布を所管する社団法人農林水産航空協会から、空中散布を無人ヘリコプターでできないかという相談があり、それに応える形で開発したのがR-50 (L09)になります。その後、1997年の「RMAX」、2013年の「FAZER」と進化して、最新作として「FAZER R」を展開しています。1990年代にはヤマハ発動機だけでなく他にも数社、産業用無人ヘリコプターを手掛けていたのですが、現在、メーカーはヤマハ一社となっています。

全長3665mmの無人ヘリ
FAZER R

──日本で生産される米の3分の1は産業用無人ヘリコプターが薬剤を散布していて、その割合は世界一だと聞きますが。

中村さん:当社調べですが、およそ42%となっています。産業用無人ヘリコプターが登場する以前の1990年代は、水稲に関して有人ヘリコプターでおよそ年間延べ140万ha散布されていました。それが現在ではヤマハの産業用無人ヘリコプターの散布面積が100万haくらいになっています。今でも有人ヘリコプターによる水稲散布も4万haほど行われていますが、事実上、有人ヘリから無人ヘリに置き換わっているといっていいでしょう。

──産業用ヘリコプターを操縦するには資格が必要だと聞きました。
中村さん:一般社団法人農林水産航空協会が認定している、オペレーターの資格を取っていただく必要があります。そのため、ヤマハ発動機では農水協の指導にのっとった教習システムも提供しています。

──さて、日本では産業用無人ヘリコプターの歴史とともにあるヤマハ発動機が、いよいよドローンに参入することとなったわけですがその理由を教えてください。
中村さん:無人ヘリは大規模な一斉防除では非常に効率的ですが、一方で個人がこの瞬間という散布の適期に自分のエリアにだけ散布をしたいというニーズもあり、そのニーズに応えたいと考えました。

──産業用無人ヘリコプターにとって、ドローンはライバルになるのではありませんか?
中村さん:新しい選択肢の提案だと思っています。今まで産業用無人ヘリコプターで行ってきた無人機による散布の延長にあるひとつの変化であり、変化があるときにはリスクとチャンスがあるものです。私たちはこれをチャンスと捉えて取り組ませていただくつもりです。

──FAZER Rは約1300万円なのに対して、今販売されている農薬散布用ドローンは200~300万円と価格面で大きな開きがあります。今後、ビジネスの枠組みが変わってくるのでしょうか?
中村さん:私たちもドローンを始める前にいろいろ試算したのですが、産業用無人ヘリコプターで散布したほうが、実は多くのお客様に散布サービスとして安く提供できるというメリットがあります。産業用無人ヘリコプターは高い能力を持っているので、広い面積を一斉に散布するには経済的には無人ヘリの方が有利なのですが、個人のきめ細かいニーズやタイミングには必ずしも応えられない場合があります。

また、小さい農家さんも田植機を持っていたりして、一概に経済性だけでは語れない部分が日本の農業にはあります。一斉に防除するタイミング以外のところで、自分の操作で空中散布をやりたいとおっしゃる農家さんもいらっしゃいます。さらに、今までは動力噴霧器等を使って自分の手で農薬を散布されていた農家さんが高齢になり、夏の暑い中で重たい機械を背負うのは大変になってきたというケースもあったりします。確かにドローンは産業用無人ヘリコプターの市場と重複するところも多少はありますが、それ以外に私たちが掘り起こせてなかった潜在的な市場が、おそらくこれから生まれてくるのではないかと思っています。

──ドローンは産業用無人ヘリコプターの市場を占めていくというより、むしろ市場が膨らむということですね。
中村さん:そうですね。ひょっとすると私たちがお客様にドローンを提案することで、むしろ無人ヘリに感心を持っていただいて「それだったら無人ヘリのサービスはいかがですか?」という提案もできますし、逆に「それだったらドローンを買っていただいた方がいいですね」となる場合もあると思います。お客様にいろいろな選択肢を持っていただけるということです。

農家の方々はドローンを買いたいのではなく、 “散布そのもの”を買いたいわけです。そんなお客様を取り巻く状況に合わせて、無人ヘリを提案してもいいですし、ドローンを買っていただいてもいいということではないでしょうか。

──産業用無人ヘリコプターによる散布は、それを専門にしている業者が農家から請け負って行っているケースが多いようですが、ドローンの登場でそれも変わっていくのでしょうか?
中村さん:確かに今は請負散布が多いと思います。農家が空中散布の専門組織に依頼するケースですね。地域の農協や、無人ヘリ事業を行うスカイテックで取りまとめた中でやるとか、地域の防除チームや農家同士で共同体を組むなどいろいろなスタイルがあります。

ただ、ドローンが出たからといってそのスタイルが大きくは変わっていくことはないとも考えられています。というのも、面積や機材の能力による費用対効果をすると、例えばドローンが1、無人ヘリが10の能力があったとして、その費用対効果はいくらになるのか、という経済性部分。さらに省力化をどう図るのかという部分において、自身で作業をするのか、散布サービスを利用するのかどちらも需要はあり、確かに部分的にかぶることもありますが、私たちはお客様がどちらを選択されてもその要望にお応えできるように準備しています。お客様が選ぶ未来に寄り添うということに尽きます。

──ドローンを出したからといって産業用無人ヘリコプターがなくなっていくわけではないと?
中村さん:極端にそうなっていくものではないと考えています。過去に有人ヘリコプターが無人ヘリコプターに置き換わった時の要因があるのですが、それが無人ヘリとドローンの関係に当てはまるかというと、そうではありません。有人のヘリコプターの時代には、社会的な問題、課題がありました。それを産業用無人ヘリコプターが解消したからこそ、置き換わっていったという歴史があります。では、ドローンが無人ヘリの課題を解決しているかというと、むしろ散布品質の点においては無人ヘリの方が優れていたりします。確かに機体の価格面では差がありますが、今後も無人ヘリとドローンは、ある程度すみ分けていくのではないかと思っています。

──改めて産業用無人ヘリコプターとドローンの違いを教えてください。
中村さん:空を飛ぶものとしての違いははっきりしています。無人ヘリはシングルローターという昔からあるヘリコプター形式で、一方ドローンはマルチローターで、電気的なモーターで空力特性をあまり考えずに、家電を作るイメージで飛ばすことができるものという理解でいいと思います。

無人ヘリはメインローターとテールローター面の角度を動かすことで制御を行いますが、一方ドローンは対になった複数のローターの回転数を変化させることのみで制御しています。また、動力としてエンジンを利用しているのが、無人ヘリ、バッテリーとモーターを使っているのがドローンの特徴と言えると思います。

無人ヘリはエンジンを搭載

──ペイロードや飛行時間も違いますか?
中村さん:やはりそこが一番大きな違いですね。FAZER Rは最大で約1時間飛行できて、薬剤のタンク容量32リッターを搭載して一度のフライトで4haを散布する事が出来ます。一方ドローンは1フライトで1ha分散布するのは難しい。散布幅とスピードにも違いがあるため、産業用無人ヘリは1フライトでドローンの4倍の面積を楽に散布することができます。

モノコック下部にタンクを備える

左右2箇所を
二重反転ローターを採用

──では、今回発表したYMR-01の特徴を教えてください。
中村氏:ひとつはやはり散布をメインに考えて開発したことです。ドローンはどうしても重量が産業用無人ヘリコプターに比べて軽いため、下に吹き付けるダウンウォッシュの空気量が少なくなる。すると薬剤がきれいに下に落ちていきません。この問題をどうやって解決するかを真剣に考えて、空力解析から実験、テストまで行った結果、左右の上下二重反転ローターというアイデアが生まれました。

もうひとつはデザインです。たとえそれが農機であっても、使う人が「持っていて嬉しい、誇れる製品」を提供したい。これはヤマハの製品に共通する想いでもあります。ドローンはその出自から家電的なデザインなのかもしれませんが、ヤマハ発動機が作るYMR-01には、空力的な性能をつきつめ、モビリティとして“動くもの”を意識したデザインとなっています。

背面には色変わりする
LEDで視認性を高める

細部にもデザインに対する拘りを反映

──あえて左右のローターのみ上下二重反転ローターとした狙いは?
中村:空を飛ぶものはできるだけローターを大きくして、回転を抑えてゆっくり飛んだ方が、エネルギー効率がいいんです。だからローターをなるべく大きくしたいが、大きくするにはローターの数を減らす必要があります。例えば8ローター、10ローターとローターが増えていくと、配置がドーナツ状なのでどうしても構造上ローターを小さくする必要があります。そういう意味では6ローターくらいがバランス的にちょうどいいのです。

しかし6ローターの場合、ローターの回転方向と機体の進行方向の関係で、ローターが生み出す下降気流(ダウンウォッシュ)の強さや発生場所が前進と後進で変わってしまうのです。この点については4ローターや8ローターだと解決できるのですが、4ローターだと産業用の機体としての安全性が損なわれてしまいます。また、すべてのローターを上下二重反転にするという方法もありますが、それだと重量と電力消費が増えてしまいフライト時間が短くなってしまいます。そこで6ローターのレイアウトで、左右のローターのみ上下二重反転とすることで、重量や電力消費を抑えながら、前後進のダウンウォッシュのバランスを均一にしつつ、散布に必要なダウンウォッシュを確保することで散布品質も確保することが出来きるよう開発しました。

──マルチローターのドローンを開発するにあたって、これまでのシングルローターの産業用無人を開発してきた技術は活かされていますか?
中村さん:もちろんかなり活きています。無人ヘリの開発でどのようにダウンウォッシュが動くのか、という解析技術を培ってきたので、それをこれに置き換えてどういうローター配置がいいのか、ということをシミュレーションで確認してから、これでいいのではないかというのを絞り込んで実験に入ったからこそ、短期間でここまでこぎつけられたと思っています。

また、無人ヘリのノウハウを活かしたフライトコントローラー以外にも、モーターやバッテリーも隅から隅までオリジナルです。モーターやバッテリーは電動アシスト自転車「PAS」で培った技術も社内には存在していました。ただ、ヤマハの技術ではありますが、エンジン機を主体としていたUMSで持ち得ていなかった純粋に新しい領域なので、そこは今でも現在形として開発を進めています。

──農薬散布に関しては現在、自動航行は認められていませんが、ヤマハ発動機としてドローンを出すにあたって自動航行も将来的に視野に入れていますか?
中村さん:自動航行が役に立つのであれば、お客様が選ばれますし、私たちも対応する必要があると思っています。実は産業用無人ヘリコプターでは長年自動航行技術を開発し続けており、プログラムどおりのルートで1時間以上の長時間フライトを行えるだけでなく、現在では衛星通信を用いて福島でフライトする機体を東京から操作するようなことが可能な機体も展開しています。ただ、そういった技術が農業での散布フライトにもフィットするかという話は別だと考えています。ヤマハとしては、農作業をどうやったら安全に、楽にできるかという事をこれからも追求し続けていきたいと考えています。


■問い合わせ
ヤマハ https://www.yamaha-motor.co.jp/ums/
■CREDIT
文:青山祐介
写真:飛澤 慎

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