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【三宅陽一郎×さかき漣】人工知能の専門家から見るドローンの存在 Vol.1

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DJIからPhantom1が2013年に発売されてから早くも5年が経過する。当初は”カメラを搭載する空飛ぶ何か”であり、ラジコンとの違いやドローンの魅力を広く認知するまでに至らなかった。ただ、それ以前にロボットや人工知能に深く精通してきた人から見れば、ドローンの存在や将来像の見方は別物だったに違いない。これから先進的なテクノロジーと融合していくであろうドローンについて、ロボットや人工知能を専門分野とする2人が持論を繰り広げる。

■プロフィール

●Photo by 松井 慎(Shin Matsui)


ドローンとロボットは何が違う?ロボットの制約とは

——まず初めに、三宅さんはゲームに関する人工知能開発を専門分野として取り組んでいますが、ドローンにも関心を持っていると伺いました。
三宅:そうですね。ゲーム会社ですから、ドローンが登場した初期のころからドローンを身近に置いていましたね。なにかドローンを使ってゲームにできないかな、と考えていたり…。

三宅さんが執筆した「ゲームで考える人工知能」
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——ドローンをゲームに?要するにレースゲームとかシューティングゲームとか??

三宅:いやいや、僕が理想に掲げているのはそういった単純なものではないんです。これからのテレビゲームって、スクリーンの中から出ることが課題となっているんですよ。ロボットとかハードウェアを使って、現実空間で新しいゲームができないかと考えてます。日本ではもう大きなテレビの前に座ってゲームをする文化が減ってきているので…。そういう意味でもドローンには注目しています。

 

——たしかに近年はスマホゲームも流行っているし、昔のように友達とリビングに集まってひとつの画面で遊ぶことが少なくなっています。三宅さんはゲームだけでなく、ロボットや電気工学にも精通していますが、人工知能開発者の目から見てドローンはどう感じますか?

三宅:まず思うのは、ドローンは上手くロボットの制約を避けてますよね。

——ロボットの制約を避けている?制約とはどういった点でしょう?

三宅:普通、ロボットは物理的インタラクション(相互作用)の塊みたいなもので、ほかの物と接点があるぶん制約を受けます。たとえば地上を自由に移動するロボットを開発するとしても、生き物の関節に似た構造にして複雑に制御をする必要がありますし、手で物を掴むだけでもすごく複雑で難しい。それだけでもいろんな特許があるくらい。だからロボット開発には50年以上もかかっているんです。でもドローンは「物理的インタラクションはやらん」みたいな顔をして、スイスイ動き回っている(笑)だから最初、この実世界を動き回れるドローンを見たときは衝撃的でしたね。逆になぜ今までなかったんだ、と不思議なくらいに。

——三宅さんに言われると飛行するロボットの凄さが伝わってきます(笑)。そしてドローンの登場について、さかきさんはいかがですか?

さかき:私も(三宅さんと)同じで、地上を歩いているロボットはすごく制約があって「地面って、やっぱり人間と動物の独占場なんだ」と。でもドローンはそんな制約を感じずに空中を自由自在に飛び回わってるじゃないですか。もしかしたらロボットよりも先に生き物に近くなるんじゃないかな、って感じます。

三宅:そう。生き物のなかでも地面と接する人間や動物は、重力を上手く使って進化してますけど、空中の生き物はもっとシンプルでいいというか、関節もそこまで複雑に進化していない。

さかき:海の生き物もですよね。とりあえず水圧と戦っておけばいい、みたいな(笑)

三宅:でも人工知能的に関心がある人から見ると、ちょっと面白くないと言ったら変だけど、さっき述べたようにドローンは基本的に環境とのインタラクションを避けているので進化しづらい。人工知能は手で物を掴むとか、岩を動かすとか、そういう物と物のインタラクションで発達していくんです。

さかき:だからAI搭載のロボットというのは、「物をどうにかする」という、行動と結果が伴うことをする役割があって、ドローンには空撮とか測量とか観測者としての役割がある。そういう意味で、おそらくロボットとドローンは根本的に違うのかなって。

三宅:僕はドローンといっても2つに区分できると思っていて、ひとつは人間が動かすドローン。もうひとつが自律型のドローンで、GPSやレーダーで状況を把握しながら動くもの。これは2足歩行に近くて、AIを搭載していると言える。ただAI技術としてはそんなに新しいものではなくて、80年代には存在していた技術です。もちろん小型化する技術は進化しているけど、機械的には最先端ではないし…。やはりなぜ今まで出てこなかったのか不思議!

 

進化し続ける”AI”と現代のテクノロジー

——技術から見るとドローンはそれほど最新ではないようですが、人目に触れるようになったのはここ数年です。ドローンの歴史で言えば、元々軍事利用に使われていたことなどはドローンに関心のある人には周知されてますよね。一方、人工知能はどのぐらい昔からあるものなのでしょうか?

三宅:スマートフォンの進化や碁が打てるアルファ碁が話題になったので、最近の技術のように思えますけど、そもそも人工知能の歴史は結構古くて、その起源をさかのぼると1600年ぐらいにデカルトという人が「人間の思考はみんな同じものだ」みたいなことを言い始めるんです。さらに「思考の一部(数学的思考)は記号に置き換えられる」と。数学的な思考は高校で習ったあの座標幾何学の式に置き換えられるんです。つまり、式は誰でも計算できるから直感がいらなくなるんですよ。

で、デカルトはそういう風に「人間の思考の一部を記号で表せる」と言ったんですけど、次にライプニッツという人物が「数学だけじゃなく、人間の思考、すべての知識は記号で表すことができる」と言うんですね、1700年ぐらいに。それがライプニッツの夢、記号主義として、ヨーロッパの真ん中を走ってきた思想で、1900年ごろになってラッセルやフレーゲがそれを本当に実現しようと「記号思考」みたいなのを書くんです。で、そこからダートマス会議※というのが、流れ込んでくるわけです。
(※人工知能に関心のある研究者を集め、1956年に開催された会議。同会議で初めて「人工知能(Artificial Intelligence)」という言葉が使われた)

——昔の人の発想力って面白いですよね。そういった頭を抱える意見を交わしながら進化してきているんですね。しかも1600年って…想像もできません。1600年からずっと夢を追い続けている。しかも未だに。これって凄いことですよね、さかきさん。

さかき:実は私、ライプニッツについて卒業論文に書いたんですよ。ライプニッツって、哲学者でもあり、数学者でもあり、物理学者でも天文学者でもあった超天才なんですけど、すごく物事を知っているからこそ、学問や自分の思考をすべて記号で表せたら、って考えた。

そうすれば人類が誰でも平等に知識を表現できて、言葉の壁や人種の壁どころじゃなく、すべての思考の壁を取っ払える、という夢を見た。それが何百年も前の哲学者が考えたコンピュータ、AIの始まり。

三宅:そうそう。だから最初のダートマス会議でも、宣言というのが残されていて「人間の思考を機械に全部移しましょう」というのが精神なんですね。で、この会議でラッセルたちが言った「公理を積み重ねていくと定理を証明できる」という自動証明を、プログラム化してデモンストレーションを行ったのが、人工知能の最初のプログラムと言われていて。なので、これが人工知能のはじまりというのが学術的な枕になってます。

——そうなんですね。とても奥が深い!というか理解し難い部分も多々ありますが…。では、話が専門的になったので少し戻すと、なぜ今人工知能、いわゆるAIが注目されているのでしょうか?

三宅:これまでも大きく分け3度ブームが起きました。最初はさっきの1956年のダートマス会議。始まったばかりだから、「よっしゃ、人類の思考を全部真似しちゃうぜ!」みたいにモチベーションが高かったんですけど、すぐに行き詰った(笑)。第2次ブームは1980年代で、人間の脳に近い仕組みをコンピューターでつくる「ニューラルネットワーク」が注目されて、パソコンも普及して「よっしゃ、いろいろできるぜ!」って思ったけど、また行き詰って(笑)。で、その「ニューラルネットワーク」が改良されて、「よっしゃ、ディープラーニングを使えば何でもできるぜ!」っていうのが今回のブームで。

さかき:これは、多分また…(行き詰る)。

一同:(笑)

三宅:まあ、私の立場からは言えませんが…(笑)。ただ人工知能は問題を限定すればするほど、作りやすいし、性能も上がる。逆に総合型知能と言って、一つの知能でいろんな問題を解かせるのはとても難しくて、今は全然できていない。

——ハタから見ればロボットや人工知能がすっごく進化してて「うわぁすげえ、こんなことも自動でできんのか」って場面が最近増えてますけど、まだまだ全然理想にたどり着いていないのが現実なんですね?

三宅:はい。だから今はすべて問題特化型で、問題ごとに人工知能のロボットを作っているという感じです。実際その方が世の中の役に立つので。で、ディープラーニングはたまたまその根幹のアルゴリズムとなっているので、画像認識ができたり、言語解析ができる。手法として汎用的ではあるけど、あれが汎用性の高い人工知能にはなれない。例えば、将棋を勉強しちゃうと料理はできないし、料理のレシピを覚えたらカーナビにはならない…。

さかき:でも現状はそれが注目されているし、とても役に立ってる!

三宅:そう。未来を想像した時によくでてくるアレ。要するにスターウォーズのC-3PO的な総合型知能は作ったところで社会的な居場所がなかったりするので。「将棋2段でお茶くみもできます」と言っても誰も買わない(笑)。

——C-3POは現代にいらないと…。


■作品紹介
人工知能のための哲学塾 東洋哲学編
著者:三宅 陽一郎
人工知能の足場となる西洋哲学を解説した『人工知能のための哲学塾』に続く、待望の第二弾! ゲームAI開発の第一人者・三宅陽一郎氏が、荘子や道元、龍樹、井筒俊彦らの思想から人工知能を探求する一冊です。今の人工知能に足りないものは何か?人工知能に欲望を与えるには何が必要なのか?そもそも知能の実体とは何か?本書はさまざまな角度から問いを投げかけます。西洋哲学では語られることのない部分、階層構造で示される知能モデルの”果て”に何があるのかをあぶり出し、すべてが存在する世界から”知能が拠って立つ場”を形成しようという試み。人工知能の次なるステージに迫ります。

エクサスケールの少女
著者:さかき 漣

30年後にやってくる人工知能が人間を超える“シンギュラリティ”(技術的特異点)。その前段階としてこの10年以内に起こるのが「エクサスケールの衝撃」だ。スパコンの計算処理能力によって、医療・物理・宇宙工学などに革命を起こし、人間生活を大きく変えることとなる――。深い孤独を抱えるスパコン研究者・青磁の前に現れた万葉集を愛する謎の美女・千歳。二人は古からの運命に導かれ、京都から東京、そして神話の里・出雲へ。“シンギュラリティ”(技術的特異点)を迎えたとき、人類の向かう先はユートピアか? それとも……。善と悪。過去と未来。生と死。人間とAI……。太古から続く運命の糸が織りなす「利己」から「利他」への壮大な物語が、今はじまる。

■第二回「SFから見たドローン」に続く…

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この記事は私が書きました。

DRONE NEXT編集長。1989年静岡県生まれ。自動車業界を経て、学生時代から趣味で乗っていたバイク好きが高じて2014年にバイク雑誌ヤングマシン編集部に配属。ある日、ドローンの新たなる未来と可能性に興味を持ち、2017年5月からドローンのフライトを始め、JUIDA認定校のドローン大学校を修了。