今年9月にセキドが発売を開始した水中の調査・点検を行う水中専用のドローン「BlueROV2」は、発売当初から様々な事業者より好評を得ている人気商品だ。しかし、一方では一般的なドローンに比べ、周知されていない部分が多いこともあり、水中ドローンの魅力を伝えるために潜水施設での操縦体験会をセキドが12月1日に実施した。
業務で使用できる高性能な水中ドローン
最近のドローン市場の動きとして、飛行用だけでなく水中におけるドローンも周知され始めている。2017年12月時点では水中に関する法律・規制はとくに設けられていない。そのため、水中における安全な運行を促進する協会が設立されるなど、水中ドローンを運用する動きが始まっている。(日本海洋ドローン協会)
セキドが販売しているBlueRobotics社のBlueROV2は58万円〜99万円(税抜き)と一見高額なイメージを持つ価格で販売している。しかし、水中ドローンの価格帯は幅が広く、数万円で購入できる物からBlueROV2のようなものまでピンキリだ。安価なものは映像伝達に遅延があるものやプロペラ(モーター)の数が1個だけしかないもの、前進+旋回しかできないものと実用的で無いものが多い。
飛行用ドローンの運用に精通しているセキドが水中における点検機器の技術の進歩に目を付け、実用的で品質の高い水中ドローンを探し始めたのがセキドが販売に至る経緯となった。もちろん一見高額ではあるが製品の完成度と見比べると商用としては決して高くない製品なのだ。
BlueROV2にはジャイロやコンパスが搭載されており、深度を検知するのに加え、波により方位が変わってしまう場合は自ら向きを修正する。深度を変えずに移動する、止まる(深度ロック)場合には強力な6個のプロペラが精度よくバランスを取り、深度を維持するのだ。このプロペラは上昇、下降に2個。左右の移動に4個を使用し、最大速度は2ノット(約3.6km/h)で移動する。
操縦は基本的に水中に潜ってしまうため、目視外での操縦となる。BlueROV2を運用するには本体のほか、モニターとパソコンが必要。パソコンはWindowsのノートパソコン等が望ましいが、セキドではWindowsタブレットでの運用も実証済みだ。
常にモニターを見て操縦するため、BlueROV2にはオペレーター用の上下チルト式カメラが搭載されている。このカメラは映像記録用では無く、あくまでも視認用としているため解像度は1080p又は720pと鮮明なものでは無い。そのため、記録用としてGoPROを搭載するためのマウントが用意されている。また、海水の汚れや暗い場所での運用を考慮してLEDを前方に4個備えているのも特徴のひとつだ。このLEDは自動車用のヘッドライトに相当する1500ルーメンの高輝度LEDで、オン・オフはもちろんのこと明るさの強弱もコントロールできる仕様となっている。
最大深度はメーカーの公称値として100mとされている。なお、GoPROを搭載している場合はGoPROの防水ハウジングの数値で深度60m(公称値)となる。セキドが販売するキット内容には200mのケーブルが含まれるが、ケーブルも水中では波に煽られたりするため、200mであっても実際には約100m程の下降が現実的なようだ。
バッテリーは運用に1本を必要とし、約4時間の運用が可能。ただし、運用環境に左右される点が多く、波が荒い場合は常に6個のプロペラでバランスを取っている状態になる。さらに、LEDも点灯しているとなると約1時間〜1時間半の駆動が現実的だ。もちろんバッテリー電圧はモニター上で常に監視できる仕組みだ。
BlueROV2をセキドで販売するに当たり、一番の注目点は機体ではなく実はセット内に含まれる200mのケーブルにある。機体が優れているのも魅力ではあるが、水中においてはGPSが入らない環境下での運用になるので、ケーブルの性能も重視されてくるのだ。
セキドでは「キット」「組み立て調整済みフルキット」の2つのラインナップを展開。セット内容は以下となる
・キット(税込価格:62万6400円)
BlueROV2組み立てキット(組み立ては自分で行う)
200mケーブル
4灯LEDライト
専用バッテリー1セット(1万8000mA)
・組み立て調整済みフルキット(税込価格:106万9200円)
BlueROV2組み立て済みキット
専用防水ハードケース
200mケーブル
4灯LEDライト(組み込み済み)
専用バッテリー2セット(1万8000mA)
バッテリー充電器
コントローラー
GoPROマウント
日本語マニュアル、ガイド
この2つのラインナップで大きく変わるのが200mケーブルだ。
製品性能としては同等のものとなるが、キットに含まれる200mケーブルは機体から取り外しができない、固定式のケーブルだ。一方、フルキットに含まれるケーブルは機体とケーブルを専用の耐水圧コネクタで接続するタイプで、ワンタッチで取り外しが可能となる。
セキドはこの耐水圧コネクタを重視し、スイスで実績と信頼のあるLEMO社と共同開発したコネクタを施工して販売している。
この部分を取り外し式のコネクタにすることで機体を容易にケース保管できるだけでなく、より長いケーブルや短いケーブルを注文し、適切な長さに変更することが可能になった。最長で1000mまでの注文に対応し、ケーブルは強度が高く、映像伝達も兼ねているため太さもそれなりにあるので、ケーブル単体の重さとしても相当なものだ。
セキドでは機体の販売に加え、保守サポートサービスも行なっている。
・安心点検パック(8万6400円)
・パソコンセットアップ(8万6400円)
・オペレーション講習(18万9000円)
と、運用からメンテナンスの部分をサポートするサービスを展開中だ。
最適な環境下で体験会を実施
セキドは千葉県市川市に位置する潜水施設を利用し、BlueROV2の体験会を開催した。訪れたのは商用として興味のある約20〜30名。現状では構造物を作る前の調査や、人工構造物の点検、TV放映などに運用する業者が多いという。
潜水施設で、機体を見ながら深さ5m程潜れる環境下での体験は貴重だ。購入しても練習を行う場が少ないのが水中ドローンの実情でもあり、いきなり海に持ち込んで実践する人も少なく無いのだ。セキドの説明員によれば、BlueROV2であればそれほど難しい操作ではないのでいきなりの実践でも対応できるという。
体験会の参加者は、まず最初にBlueROV2の運動性に驚いた。見た目とは裏腹にスムーズにキビキビと動き、操縦の難易度も低い。
操縦は汎用のコントローラーを採用しており、飛行用ドローンで言うところのモード1に設定されている(購入時初期設定)。モニターに映し出される映像も十分な画角を映してくれるので、機体がどちらを向いているか分かりやすい。また、カメラにはスタビライザー機能が備わっていてジンバルのような役目を果たす。カメラができるだけ水平を保つように可動するが、ガッチリと水平を保ってしまうと機体の傾きや方向を捉えにくくなってしまうので、ある程度考慮されている。また、強力なプロペラによりしっかりと操縦をサポートしてくれるので、初めて操縦するユーザーであっても、数分で操縦に慣れ、スイスイと動かすことが可能だ。
モニターにはマップと深度、方位を常に表示しているが、BlueROV2は自分の位置を把握するセンサーを搭載していないので、水中の目標物を頼りに自分のだいたいの位置を探りながら操縦する必要がありそうだ。
やはり興味を持つユーザーからすると有線式は疑問が浮かぶようで、水中の中でケーブルが絡まったりしないのか?という声も多かった。BlueROV2は4方向はもちろん、旋回においても自由自在に動かすことができるので、ある程度ケーブルが絡まったとしても機体を動かすことで解くことは容易である。また、水中の中でバッテリーが切れてしまった。トラブルで駆動しなくなってしまったという場合でもケーブルを引っ張り、機体を回収することが可能だ。重量は10〜11kgで持ち上げることができないほどの重さではない。そのため、ケーブルはフック形状のもので繋がっていてケーブルその物の強度も強い物を採用している。
実際にBlueROV2を操縦!
体験会では私もBlueROV2を体験させて頂いた。
飛行用ドローンと違い、水中は摩擦抵抗があるのでかなり安定した印象だ。深度ロックも精度が高く操作をしていない時はその場で微動打にせずジッと待機してくれている。これであれば、プロペラで海中の砂を巻き上げてしまったり前方の視界が奪われた場合でも安心して対処ができるなと感じた。動作はとても力強く移動し、スピードもストレスが無く、安全性とのバランスもちょうど良い。
搭載されるオペレーター用のカメラは視認用なのでそれほど期待はしていなかったが、想像以上に鮮明に映像を映し出すうえに遅延はほとんど感じられない。また、その映像をサポートしているのが高輝度LEDで、深度を深めていってもしっかりと細部まで映し出してくれる。ただ、今回は施設での体験なので濁りの無い水を使用しているが、実際に湖や海の濁った水の場合はカメラの精度やLEDのサポートでは行き届かない点もありそうだ。
動作にはPCが必須で専用のアプリを立ち上げていないとドローンは作動しない。なので、PCの負荷が多かったりするとアプリが落ちてしまいドローンが停止するというケースが何回かあったので、その点はややネックと思われるが、それもPCのスペックや使用環境次第なので解決できない問題ではないだろう。
冒頭で触れた通り水中ドローンに関しては法律や規制が無いので安全に運行するのはもちろんだが、その他にも湖や海で使用したドローンをそのまま別の湖や海で使用することによる水質汚染など、考えられることは多いので飛行用と同様にモラルを持った運用が必要だ。